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 ごくごく普通の小学校のお話です。生徒たちはみんな給食のデザートが大好きです。なかでも一番人気はメロン。メロンをあげるかわりに、こんどの給食で出るプリンを2つちょうだい、といったやりとりが盛んです。


 しかし、ひんぱんにこんなやり取りをしていると、むかしの約束ごとを忘れてしまったりすることも。
「この前のメロンの代わりに今日のプリンくれるはずだろ!」
「ごめん、忘れててさっき他の人にあげちゃった。。。」

 

 これを見かねた西野くんは、こんな提案をしました。
「学校でお金のやり取りをすると先生に怒られてしまうから、牛乳瓶のふたをお金の代わりにしよう。うちは紙パックの牛乳だから、ぼくのお兄ちゃんの中学校の牛乳瓶のふたをもってきて、それを使おう。」

 放課後、西野くんとそのお友達が空き地に集まって、詳しく相談することになりました。

「学校では、この牛乳瓶のふたを1枚10円だと思って流通させよう。ここに100枚用意してきたから、とりあえずぼくら10人で10枚ずつ分けよう。そして、ぼくらの絆の証として、みんなでこのベーゴマをもっていよう。」

 西野くんは、牛乳瓶のふた100枚と、隣町の駄菓子屋でたくさん買ったベーゴマをみんなに1つずつ配りました。

 

 翌日から、彼ら10人はデザートを売買するときのお金として、牛乳瓶のふたを使い始めました。スーパーの値段を参考に、メロンは4枚、プリンは2枚、といった具合に。10人で楽しくやりとりしていると、クラスの別のお友達も興味を持ちはじめます。

「その牛乳瓶のふたをぼくにもちょうだい。」
「1枚10円で売ってあげるよ。」
「ぼくにも売ってほしい!」


 そうこうしていると、最初は10人で始めていたけれど、使っている人は20人にまで増えました。クラスの女子も興味を持ちはじめます。

「わたしにも売ってほしい!」
「ほしい人が最近増えすぎていて、1枚10円じゃあ売りたくない。20円ならいいよ。」
「20円で売ってほしい!」

 さいしょは1枚10円として始めたのに、20円になってしまいました。


 しかし、西野くんはこれを良く思いませんでした。

「あくまでお金の代わりに使う目的で始めたのに、値段が変わってしまうのはおかしい。もっと牛乳瓶の枚数を増やそう。」

 西野くんはお兄ちゃんに頼んで、翌週学校に追加で牛乳瓶を100枚持ってきました。

「ほしい人が増えすぎたから、枚数を増やすことにしたよ。この牛乳瓶のふたはベーゴマを持っている人に配るよ。」

 ベーゴマを持っている10人は、ひとりあたり10枚ずつ牛乳瓶のふたをもらいました。枚数が増えたので、ふたたびみんな1枚10円で取引をするようになりました。多くの人が使うようになりはじめると、隣のクラスの人たちも興味を持ちはじめ、再びベーゴマを持っている人に牛乳瓶のふたが配られました。

 

 西野くんのお友達はあることに気づきました。

「ベーゴマを持っていて、牛乳瓶のふたを欲しがる人が増えると、牛乳瓶のふたがもらえる。このベーゴマを売ることもできるんじゃないかな。」

 ベーゴマ自体の取引もさかんに行われるようになりはじめました。

「ベーゴマは牛乳瓶のふた50枚と交換してあげるよ。今月はたくさんメロンを食べたいんだ。」

「ぼくは直近のデザートで好きなのが特にないから、将来にデザートをもっといっぱい食べるために、ベーゴマをいま牛乳瓶のふた50枚で買っておこう。」

 西野くんが作った仕組みがどんどん拡大していきます。

 

 しばらくたってからのことでした。学校の給食のしくみが変わり、デザートが毎日プリンしかなくなってしまったのです。

「ぼくはメロンをたくさん食べるために牛乳瓶のふたを集めていたが、これならもういらない。誰か買い取ってくれないかい。」
「わたしはプリンでもまあいいから、1枚5円なら買い取ってもいいよ。」

 みんなが取引する価格が5円まで落ちてしまいました。

 

 これはまずいと思った西野くんは新しいアイデアを考えました。

「牛乳瓶のふたを燃やして捨ててくれた人には、ベーゴマを新しくあげるよ。いつかメロンが復活した際には、また牛乳瓶のふたを欲しがる人が増えるだろうから、その時にはベーゴマを持っている人に牛乳瓶のふたをあげるよ。」

 牛乳瓶のふたを20枚捨てた人たちにベーゴマが1つ配られました。牛乳瓶のふたの流通量が減ったので、ふたたび1枚10円で流通するようになりました。このあとも、ふたたび牛乳瓶のふたが増えたり減ったり、ベーゴマを持っている人も牛乳瓶のふたがもらえたりしながら、西野くんの仕組みがうまく回っていきました。

 

 ある日のことです。PTAの方針により、デザートは今後毎日ピーマンしかなくなってしまいました。

「ピーマンしかないなら、牛乳瓶のふたはいらない。安くてもいいから買ってくれる人いないかな。」

「ピーマンしかないならだれも欲しがらないよ。ぼくもいらない。」

「さすがにいつかピーマンだけの日は終わるだろうから、1枚2円だったら買ってもいいよ。」

 西野くんはこれまでと同じように、牛乳瓶のふたを燃やす代わりにベーゴマをあらたに配ることで、流通枚数を調整しようとしました。牛乳瓶のふた5枚を燃やすことでベーゴマが1つ配られ、なんとか1枚10円で取引をしてくれるようにもどりました。このとき、牛乳瓶のふたの流通枚数は、最初の100枚まで戻っていました。ベーゴマは気が付けば100個流通しています。

 

 次のPTAでは、さすがにピーマンだけの状態が改善されるかと思いましたが、改善どころか、校則でピーマン以外のデザートがなくなることが決定してしまいました。

「牛乳瓶のふたは10円なんだろ?誰か買い取ってくれよ。」
「いやだよ。1円でも買うもんか。10枚1円なら考えてやってもいい。」

 西野くんはこれまでどおり、牛乳瓶のふたを燃やしてもらうことにしましたが、今回は1枚燃やすかわりにベーゴマ10個を配ることになりました。牛乳瓶のふたの流通枚数は5枚まで減り、ベーゴマは数え切れません。これでも牛乳瓶のふたを10円で売買する人が現れないので、西野くんが申し訳なさそうに残りの5枚をほかの人たちから1枚10円で買い取りました。

 

 それから結局、デザートがピーマンだけじゃなくなる日は来ることはなく、牛乳瓶のふたを取引する人はあらわれませんでした。

「わたしは牛乳瓶のふたが必要な量だけ買って使っていたから、終わってしまったのは残念だけど、特に損したわけでもなく、まあ、便利だったね。」

「ぼくはお年玉をつぎこんでベーゴマを買い集めていたけれど、二束三文になってしまった。自業自得というやつだね。」

「ところで、西野くんが持っている最後の牛乳瓶のふたは5枚あるけど、50円持っているということなのかなあ。」