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Enigmaに投資するということ

https://www.slideshare.net/herumi/ss-59758244

 

暗号理論の世界において長年未解決問題とされていたのは、暗号化されたデータのまま足し算と掛け算をすることであった。足し算と掛け算ができれば理屈上どんな計算もできるようになるので(5-3=5+(-3)だし、10÷2=10×(1/2)だし)、何かしらの分析のために、安全のため暗号化して保存していたはずのデータを復号する過程で、情報が外部に漏れるリスクがなくなることになる。

 

この問題は数十年前から研究されてきたテーマであり、足し算だけならできる手法や、掛け算だけならできる手法であれば、2000年以前に見つかっていたが、どちらもできる手法は見つかっていなかった。

 

https://crypto.stanford.edu/craig/craig-thesis.pdf

 

2009年9月、ビットコインの誕生とほぼ時を同じくして、完全準同型暗号(FHE: Fully Homomorphic Encryption)という、足し算と掛け算のどちらも可能な手法がCraig Gentryにより発表された。これは暗号理論として革新的な発表であり、この論文を契機として暗号理論がさらなる飛躍を遂げることになるわけだが、この論文における手法自体は極めて理論上のもので、1ビットのデータを暗号化すると1ギガバイトになるなど、実運用上そのままでは使用に耐えないものと考えられた。

 

https://link.springer.com/content/pdf/10.1007/978-3-642-32009-5_38.pdf

 

2012年、制限付き準同型暗号(SHE: Somewhat Homomorphic Encryption)という手法が考案された。これは、足し算については特に問題なく何度でも可能だが、掛け算については実行可能な回数が制限される一方で、データ量も計算時間も劇的に早くなり、実運用で耐えることができる、というものであった。

 

以降、これらの飛躍的な暗号理論の進化を踏まえて、様々な実用化に向けた研究やプロジェクトが始動することになる。

 

・世界初!暗号化したまま統計計算や生体認証などを可能にする準同型暗号の高速化技術を開発

http://pr.fujitsu.com/jp/news/2013/08/28.html

 

 

NEC、暗号化データ保護に有効な「秘密計算」の高速化手法を開発

https://japan.zdnet.com/article/35093838/

 

・数値・順序・離散データを暗号化したまま統計解析する実用的秘密計算手法を開発

 

https://www.jst.go.jp/pr/announce/20170301/index.html

 

そして、これらの最先端の暗号化計算技術を、誰もが参加できる開かれたネットワーク(すなわちブロックチェーン)上で実現しようとしたものが、Enigmaプロジェクトなのである。

 

https://www.enigma.co/

 

暗号理論の発展の流れから見れば、その最先端の暗号化計算技術を誰もが使える世界にするものと捉えることもできるし、ブロックチェーンの側から見れば、ブロックチェーンに決定的に欠けているプライバシーの問題を解決するものと捉えることもできる。

 

ここで念のため注記しておくこととしては、MoneroやZcashやDashがやっていることとはまるっきり違う、ということである。それらはそれはそれでイカした技術で匿名送金を実現しているが、イメージとしては、イーサリアムのスマートコントラクトを暗号化した状態で行うものと言える。スマートコントラクトを使って何かしらのデータに対して計算をさせようとすると、ブロックチェーンの性質上、元データもあらゆる計算結果も誰でも見れる状態になる。enigmaがプライベートコントラクトのプラットフォームと言われる所以はそこで、暗号化されたデータを保存・売買できるDataMarketplaceと、その暗号化されたデータをそのまま計算にかけられるプロトコルが、enigmaの正体である。

 

2015年にEnigmaのwhite paperが公表され、昨年9月にICOが行なわれたわけだが、現時点ではEnigma プロトコル上で動くCatalyst(仮想通貨ヘッジファンドを簡単に作れるアプリ)と、DataMarketplace(データ売買プラットフォーム。現在はイーサリアムのtestnet上で使える。)がローンチされており、今年の第三四半期にプライベートコントラクト機能も含めてメインネットでローンチされる予定である。

 

ポイントとなるのは、初回のローンチの段階で実装されるプライベートコントラクト機能が全てというわけではない点である。暗号理論の発展に伴って、より計算効率のよいものに徐々にアップデートされていくことになる。プライベートコントラクトを効率的に実行するにはコーディングの仕方が重要になるため、個人的な見解としては、頻繁に使われる計算ロジック(例えば線型回帰分析など。これについてはFHEでも高速で計算できるロジックが見つかっているようである。)については効率的なコードがパッケージ化されて、誰もが簡単に実行できるようになると考える。

 

これらの暗号化技術をだれもが享受できる未来というのは、私からすればとてもわくわくする未来だが、実際に世間に浸透していくかはわからない。かつて公衆電話がある中で携帯電話が普及する未来をみんなが予想できたわけではなかったのと同じようなものかもしれないし、セカンドライフのような結末を迎えるかもしれない。

 

Enigmaに投資するということはそういうことだと私は考える。